刷術による芸術――文芸は、近代科学そのものの力をかるラヂオや映画に圧倒されて了わねばならないであろうことは、予測するに決して難くはないのである。
だから、未来ある若き人たちは「科学小説」を将来の綜合的な大きな文学の発生への必然的な一過程として、一段階として認識し、充分に注目する必要があると思う。それと同時に、もし諸君がかく考え来るならば、諸君は現代文学者の怠惰に抗し、それを文学者たるものの恥と心得、決然として立ちあがらねばならない時に到っているのではあるまいか。
さて、現に存在している「科学小説」は次の三つの傾向によって分類しうる。
その第一は、現在の科学の知識に基いて、それを奇怪な形に、一つの事件に結びつけて描いたもの。例えば――
アサー・コナン・ドイルの「ロスト・ワールド」のごときものである。「ロスト・ワールド」は、既に映画化もされ読者諸君も御承知のように、南米の人跡未踏の内地に、前世界の動物である恐竜や飛竜や類人猿なぞが棲息している高地を探険する物語で、科学的智識に豊富なる空想力を加えて創造されたのである。その探険隊が帰還して倫敦《ロンドン》に於ける報告会を開催するや、実物の標本として取り出した飛竜の雛が忽ち会場の天井の高窓から飛び去って、聴衆が大騒ぎを演ずるなど、大衆的興味をも充分に備えている。
或は、ジュール・ベルヌの「月世界旅行」とか「海底旅行」などの諸作品もこの類に属するものであろう。その他ヘンリー・ライダー・ハガードの諸作品に見るような、地理学的基礎にたって、風俗上、動植物学上の智識を傾け、アフリカ内地の怪奇を描いたものも然りである。
つまり、現代の科学の智識を基礎として想像し得る、天空、海中、地下、地上にありとあらゆる不可思議を興味深く書いた作品を含むのであって、多分にロマンチックな傾向を有する類いである。
第二は、科学的智識に基礎を置いていること勿論ではあるが、加うるに多分の社会的な意義をも併せて含めている種類の作品。――
その適例は、ジャック・ロンドンの諸作品、例えば「野性の叫び」のごときに見る。
「野性の叫び」は一匹の犬を主人公とした小説で、初めは富豪に愛育されていたが、人に盗まれ、売られ、虐使され或は北アラスカの荒涼たる氷原に橇《そり》を引き、或は愛犬家に撫育されて人の感情に鍛えられ、文化や野蛮の間に彷徨しながら、遂に天性の野獣性が眼覚め、狼群の長となる、ユニークな物語である。ロンドンは又、「アダム以前」という作品で、人間の原始生活を描写し、半獣生活に現代の過剰文化からの逃れ路を暗示している。
その外、以上の点を基本としているには違いないが、興味一方で書かれたもの。例えば――
バロウズの数種の「ターザン物語」、スチブンスンの「ブラック・エンド・ホワイト」「ジーギル博士とハイド氏」のごとき作品もこの種類に含まるべきものであろうと思う。
最後の傾向として、次のごときものが存在する。
即ち、H・G・ウェルズの諸作品に依って代表されるもの。例えば、「時の器械」に於て、彼ウェルズは一瞬にして数十万年を往復する器械を書き、「眠れるものの眼覚める時」で器械に囚われた社会を暗示的に書いている。
この種の「科学小説」は、今の科学が未来に於て如何に発達していくであろうか。――将来の社会の科学的発達を深淵なる科学的智識の傾倒と、加うるに豊富なる空想力とに依って描出したものを含むのである。換言するなら、最も純粋なる「科学小説」を指示するのである。
以上のような、三つの傾向を私たちは、当今行われている「科学小説」に見るのであるが、未だ今日では、これらの何れもが単に娯楽的な興味より含んでいない状態に置かれていて、そのレベルを抜く作品は殆んど無いといった有様なのである。併しながら、「科学小説」はもっと発展しなければならないし、又近き将来に於て、益々隆盛を見るに違いないのである。
私は、次のように断言し得ると考える。即ち、正しい科学の発展の方向が優れた文学によって科学的に綜合され、統一され、暗示されて、正当に、明確に、科学の進歩すべき方向が指し示されるであろう時、その時こそ、かかる綜合的な一大文学は自ら社会革命の意義と任務を充分にその肩に担い得るであろう、と。
何故か。今日の烈しい科学の発達の速度を見給え。この科学の行く処を知らない加速度的発達は、一般人の想像すら許さない有様である。将来の文学の一つの重大な意義と任務は、その科学の発達を読者大衆に説明し、指示することにあるといわねばなるまい。私は、一人のエジソンの頭脳によって、この人類社会の科学的進歩がどの程度に迄発達したか、――極言すれば、人類社会そのものがどの程度にまで進歩したか、――を考えるとき、私たちの社会に於て、マルクス主義者とか、或はその思
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