もう一息という所で、踏込方が足りませぬな。四度目の斬込みなど確かに一本きまった所、ほんの一寸で外《そ》れましたが、踏込んで御覧なさい」
 身分は低いが武芸自慢の足軽、中々批評を試みる。
「左様、つい気怯《きおく》れ申して見物が多いと固く取っていけませぬ」
「いや、見物があるので固くとらるる位なら見上げたもので御座る」
 足軽大いに上げたり下げたりしている。
「如何、始めてよろしゅう御座るか」
 と、小目付が聞きにくる。
「これは御丁寧なる。何卒《どうぞ》御打ち下されい」
 どーん、どーん。見物、欠伸《あくび》していたが、そろそろ起直ってくる。
「いざ」
 と引く六尺棒、又勝負したが、どうにかこうにか討取る。どっと鬨《とき》の声が上る。
「御目出度う御座る」
 という足軽の言葉をあとに、検使に礼を述べる。
「首級《くび》を持参の儀苦しゅうない」
 講談だとすぐ竹矢来を結んで敵討をするが、本当の話となるとそんな事をして仇討したのは極く稀である。俗書に伝えられているのはこれと「宮城野信夫の仇討」位のもので、行馬《こうば》の中での晴の勝負など滅多と無かった。一例として挙げておく。



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