れ。――女狩、立てっ」
 右源太は、蒼白になって、顫えていた。
「父の敵、勝負だっ」
 お歌は、膝の前の金を、素早くとって、よろめきながら立上った。
「女。邪魔だっ、外へ出ろっ」
 お歌が、壁へ手を当てて、よろめきつつ、――だが、金だけは、片手に握って、走って出ようとした。
「お歌」
 お歌は、振向かなかった。
「お歌っ」
 右源太が、立上って、お歌を追おうとした。弟が、その腰を蹴った。右源太は、壁へどんとぶっつかって
「無法なっ」
 と、怒鳴った。近所の人々が、走って出てきて、お歌へ
「おやっ」
「何か、騒動が――」
「ええ、敵討。右源太は、悪人で、あの人に斬られます」
 右源太は、微かに、それを聞いて
「歌っ、何を申す」
「うぬっ、刀を持てっ」
「いや、何卒、全く人違いにて申訳御座らん。大作は、本物と、弟子と、影武者と――」
「うるさい、武士らしく、勝負せい」
「兄上。長屋の人の騒がぬうちに」
「歌っ。おのれ金を持逃げして、全く、人ちがい――」
「父の怨み、大作殿の怨みを晴らす、弟」
 二人は、刀を振上げた。
「ちがう、人ちがいだ。女狩右源太も、二人あるっ。三人あるっ。わしはちがう
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