の上へ這上《はいあが》って、又、暫《しばら》く、四辺を、警戒していたが、静かに、指を口へ入れて、ぴーっと吹いた。
提燈が、堤の両側に、川下に、川上に動いていた。夜風が、もう冷たくなっていたので、大作の身体はがたがたと、眼に見えて顫《ふる》え出してきた。
「ぴーっ」
それに応じて
「ほーう」
と、ふくろうの鳴声がした。低く、ぴっと鳴り、又、ほーっと応じた。茶店へ、押入れられた商人が
「先生」
「寒い」
暗い中で、大作は、手早く、どんつく布子をきて、髪を束ねた。そして、薬をのんで
「大丈夫か」
と、いった。
「人数は出しおりますが、恐ろしさが、先で、一言名を名乗ったら、逃出しましょう」
「百姓共は、何んと、申しておる」
「喜んでおります」
「ならよい。村へ逃げて入れば、どこかへ匿《かく》してくれよう」
「食事を」
「歩きながら」
大作は、立上った。
「よく――何と申してよろしいか、人間業では御座りませぬな」
「いいや、人間業じゃ。死を決して行えば、鬼神も避けるし鬼神も討てる。遠くから手を束ねて討とうなどと考えたから、大砲は仕損じたが、越中風情短刀一本で事が足りる」
「首は」
「
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