して根が芸人である。
「太夫になると素敵ですぜ、ねえおたかさん。おい嬶《かか》、どう思う」
「そう妾《わたし》も思っていたよ。惜しいもんだよ、こんな長屋に捨てておくのは」
「どうです、御母さん。私の口でなら松葉屋って、吉原で一二の大店へ話が纏《まと》まるが」
 と、金七が居ないと云うし、母子にしてもここまで来ると、それより外に途がない。一夜泣きながら話をきめて、
「それでは一つ御頼み申します」
「しめた」
「ええ」
「いえ、こっちの事」
 と云って一走り松葉屋へ。
「宵の中から君さん」
「今日は流しじゃ無《ね》えんで、これ居ますかい」
「居るよ、無心かい」
「へん、時々はこっちから儲けさして差上げる事もあるんだ。まあーっ、高尾か玉菊か、照手《てるて》の姫か弁天か」
「トテシャン」
「洒落ちゃいけねえ、大した代物で、家《うち》に居るんだ」
「ぷっ、手前の女房じゃ、金をつけても嫌だよ」
 主人が逢って、とにかく玉を見よう。連れてくると、
「成程義太夫の御師匠の見つけた玉だけあってトテシャンだ」
 と、二百五十年を経て、洒落になるのだから、作り話でもこういう風にしておかぬといけない。
 十年
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