の様にですな」牧師は答えた。
「それは疑いなく墳墓の時代と同時代です。そしてそれの内容は銘の中に記されていますが。ざっとではありますがな。十三世紀の初期ここの領主の、ギイ・ド・ギソルがゼノアから来た使臣の所有である美しい黒馬に心をうばわれました。が商売気のある彼は巨額の値でなければ売る事を欲しなかったのです。ギイは貪慾のために寺院強奪の罪を犯しました。そして、ある物語りに依ると、そこに使っていた所の、僧正を殺ろしたとさえ云うのです。とにかく、僧正はある呪いを口走りました、それは、彼の墓の安息所から金の十字架を奪い取って自分のものにしたりまたはそれがそこに戻った時にそれをさまたげる誰れでもに振りかかるというのです。領主は町の鍜治屋《かじや》に聖宝を売って馬の代金を工面しました、がしかし彼が馬に乗った最初の日にそれが飛び上って教会の玄関の前に彼を投げ出したのです、そして領主は首を折ってしまいました。かれこれするうちに、今まで金持でその上繁昌していた鍜治屋が、不思議な事が連続的に起って破産してしまいました。そしてなおこの領地に住んでいたユダヤ人の金貸《かねかし》の権力に落ちこんでしまいました。饉死《がし》するより外にしようのなくなった、鍜治屋は林檎の樹に首をくくってしまいました。彼の他の品物、馬、店、そして道具等と一緒に、金の十字架は長い間金貸の所有になってました。そのうちに彼の不敬な父に起った天罰に恐怖された、領主の子息が、その時代の暗いそして厳格な精神における信神者《しんじんもの》になって来たのです。そして彼の家来中の凡ての異教徒または不信者を迫害するのが彼の義務であると考えました。父親には黙許されていた、ユダヤ人がその息子の命令に依って残酷に焼かれました、それで彼が聖宝を所有していたためにひどい目にあったのです。これらの三つの天罰の後で、それは僧正の墓にかえされました。それ以来それを見た者も手をそれに触れた者もないのです。」
 ダイアナ夫人は予期していたよりもいっそう動かされたように思われた。
「これはほんとに身震《みぶるい》を催させますね」と彼女が言った。「牧師さんを除いては、私達がその最初であろうと考えますとね」
 大きな髯を生やしたそしてでたらめの英語を使う先鋒者は結局彼の気に入りの階段からは下りなかった。その階段は発掘を指図する労働者にだけ使用されていたものであった。牧師は百ヤードばかりはなれた大きなそしてもっと便利な入口に彼等を案内した。そこから彼はたった今地下を調査して出て来たばかりであった。ここでは少し下り道ななだらかな傾斜なのでだんだんに暗さをます以外にはさして困難ではなかった。彼等は松脂《まつやに》のように黒い磨り減らしたトンネルの中に動いてるのがわかった。そして彼等が上の方に一条の光線を見たのはそれからまもなくであった。その沈黙の進行の間に一度誰れかの呼吸のような音があった。それは誰れのであるか言う事は不可能であった。そして一度そこにはにぶい爆音のような嘲罵《ちょうば》があった、そしてそれはわからない言葉であった。
 彼等は円いアーチの会堂のような円い小室《こべや》に出て来た。なぜならその会堂はゴシック式の尖端《さき》のとがったアーチが矢尻のように吾々の文明をつきさす前に建てられたものであるから、柱と柱の間の青白い一条の光りが頭上の世界への他の出入口を示した。そしてまた海の下に居るという漠然たる感じを与えた。
 ノルマン風の犬歯状の模様が、巨大な鯊《はぜ》の口に似たある感じを与えて、底知れぬ暗さの中《うち》に、アーチ中にかすかに残っていた。そして石の蓋が明いていて、墳墓それ自身の暗い巨体の中にかかる大海獣のあごがあるかもしれなかった。
 ふさわしいという考えからかあるいはもっと近代的な設備の欠乏からかして、その僧職の好古家は床の上に立ってる大きな木製のローソク台にただ四本の丈高いローソクをとぼして会堂の照明を計った。これ等の一本が、彼等が這入って来た時に、偉大な古物に弱々しい光りを投げながらとぼされた。彼等が皆集った時に、牧師は他の三本に火をつけるために進んだ、そして巨大な石棺の形ちがもっとはっきりと見えて来た。
 凡ての眼は、ある神秘な西方の方法に依って幾年ともなく保存された、その死人の顔に注がれた。教授は驚異の叫びをおさえる事がほとんど出来なかった。なぜなら、その顔は蝋燭の面のように青白くはあったけれども、今眼を閉じたばかりの眠ってる人のように見えたから。その顔は骨っぽい骨格を持ち、狂神者型でさえある、苦業者の顔であった。体は金の法衣とそして華美な祭服をつけていた。そこから胸の所が高くなっていて、喉の下の所に種々短い金の鎖の上に有名な黄金の十字架が輝いていた。石の棺は頭部の蓋を上げると開かれるようになっ
前へ 次へ
全14ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング