の人は専問家について話します。しかし私は一体この世で一番難かしい事は専問にする事であると考えますな。例えば、この場合においてですな、一体人間はそれ以前にローマについてまたはその後のマホメット教国についてあらゆる事を知るまでにどうしてビザンティンについての色々の事を知る事が出来ますか? 大概のアラビア芸術は昔のビザンティン芸術でした。まあ、代数学でもおやんなさい――」
「しかし私は代数学等はいやで御座いますわ」と夫人は叫んだ。「私は今まで決して致しませんでしたし、また決していたしません。でも私は死体をミイラにするという事には非常に興味を持っておりますの。私はガットンがバビロンの塋穴《えいけつ》を発掘した時に、あの人と御一緒に居りました。それ以来私はミイラを発見してそれを保存しましたが全くゾッとしますわ」
「ガットンはおもしろい男でした」と教授は言った。「彼の家の者はおもしろい家族でしたよ。議院に這入《はい》った彼の兄弟は普通の政治家ではありませんでした。私は彼がイタリーについて演説をするまではファシストを少しも了解しませんでしたね」
「でも、私達はこの旅行ではイタリーにはまいりませんのですもの」とダイアナ夫人はしつこく[#「しつこく」に傍点]言った。「そしてあなたはあの塋穴が発見された、あのつまらない場所へいらっしゃるおつもりで御座いましょう。そうじゃありませんの?」
「サセックスはかなり大きい所ですよ。小さいイギリスの地方の中では」と教授は答えた。「[#「「」は底本では「」」]そしてブラブラ歩くにはいい場所ですよ。あなたがそれに上《あが》るとそれ等の低い丘がどんなに大きく見えるかという事は驚異ですなあ」
嶮悪《けんあく》な意外な沈黙が起った。それから夫人は言った、「ああ、私は甲板にまいりますわ」そして他の人々も彼の女と共に立ち上った。しかし教授はぐずぐずしていた。小さい坊さんも、叮嚀《ていねい》にナフキンをたたんで、テーブルをはなれる最後の人であった。それからこうして彼等二人が居残った時に教授はだしぬけに彼の相手に話しかけた。
「あのさっきちょっとお話した事についてあなたはどう思われますか?」
「さあ」とブラウンは微笑しながら言った。「あんたがわしに訊ねられてから、わしを少しばかりおもしろがらせる事がありますようじゃ。わしは間違とるかもしれん。があの話し仲間はサセ
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