かあるいは他の何人かが聖宝を盗もうと計画したのであったならその計画は完全に打ちこわされるのであった。
彼が宿屋と教会との間の、村の通りの真中に一方ならぬ混乱の中に立っていた時に、その通りに近づいて来る親しみはあるがむしろ予期しない人物を見て驚きの軽い衝動を感じた。太陽[#「陽」は底本では「洋」]の光りに非常にやつれて見える、新聞記者の、ボーン氏であった。日の光りは案山子《かかし》のそれのような薄ぎたない彼の着物をあらわにした。そして彼の暗いそして深く落ちこんだ眼が牧師にジート注がれた。後者のその厚い髯はニタリ笑いのような少なくとも凄い微笑に似た何物かをかくしたという事を見極めるために二度見つめた。
「わしはあんたはもう行ってしまわれた事じゃと考えてましたわい」師父ブラウンは少し鋭く言った。「あんたは二時間も前の汽車で出発されたんじゃと思っとりましたよ」
「ところで、あなたは私が出発しなかった事がおわかりでしょう」ボーンが言った。
「なぜあんたは戻って来られたんじゃな?」まじめに坊さんが訊ねた。
「急いで立ち去るのは新聞記者にとってあまり結構な事ではありませんからね」と相手が答えた。「ロンドンのような陰気な所に帰って行く間にここで色々の出来事があまりに早く起ります。その上、彼等はこの事件から私をのぞく事は出来ますまい――私はこの二番目の事件の事を言うのですが。あの死体を見つけたのは私でした。あるいはとにかく着物をね。私は全くうたがわしい行為は、ないじゃありませんか? たぶんあなたは私が彼の着物をつけたがったとお考えになりましょう」
それからやせた長い鼻をした山師は不意に、彼の両腕を差しのべそれから道化の祈祷の様な具合に彼の黒い手袋をはめた両手を拡げながら、市場の真中に変な身振りをした。つぎの様な事を言いながら、「オオ親愛なわが兄弟よ、吾は御ん身等凡てを甘受するであろう……」と、
「一体あんたは何を言うとられるんじゃ?」師父ブラウンは叫んだ、そして彼のずんぐりした蝙蝠傘で軽く敷石をたたいた。なぜなら彼はいつもより少し気短かであったから。
「ああ、もしあなたが宿屋に居るあなたの遊山の一行に尋ねられたならそれについての凡ての事がおわかりになるでしょう」とボーンは不平気に答えた。「[#「「」は底本では欠落]あのターラントという男は私がただ着物を発見したという理由で私を疑っ
前へ
次へ
全27ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング