た。怪しい若者は黄いろい顔に凄いほど復讐の色をみなぎらせながら玄関口に面して立った。二本の剣は二本の十字架の墓標でもある様に芝生に立った。夕日はまだ消えやらず芝生を赫々《あかあか》とはでに染めていた。そしてごい鷺もまたしきりにボコポンボコポンと啼いていた。何かしら小さな、しかし怖るべき運命を予告でもしているもののように。
「サレーダイン公爵」とアーントネリと呼ばれる男が云った。「汝は我輩がまだ物心のつかぬ嬰児であった時、我が父を殺して我が母を盗んだ。しかし汝は我輩が今から汝を殺すように手際よくは父を殺さなかった。汝と我が迷える母とは父をシシリア島の人なき路に馬車を連れ出して、絶壁の上から突き落し、その足で高飛した。我輩もまたその手で汝を瞞し撃ちにしてもよいのではあるが、それはあまりに卑劣だ。我輩は世界の隅々まで汝を追廻した。しかし汝は巧みに姿をくらましおった。だが今や遂に世界の涯までいや、汝の涯まで到着したんだ。汝は既に我が掌中にあり。我輩は汝が決して我が父に与えはしなかった機会を汝に与える。いずれなりとこの剣を取れ」
 公爵はしばし眉をしかめてためらう様に見えたが、殴られた耳の中がま
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