の弧に赤い頬鬚を光線のように発射させた一人のおだやかな、福々しいシャツ姿の男が、ゆるやかな流の上に上ってる柱にもたれているのを見た。フランボーは揺れる舟の中にいきなり背丈一ぱいに立上りさま、その男に『|蘆が島《リードアイランド》』もしくは『蘆《あし》の家』を知っているか、と訊ねた。福々した男の微笑はかすかにひろがった、そして彼はただ川上のうねりの方を指さした。フランボーはそれ以上話す事なしに前方へ進んだ。
舟は草深いうねりを幾つか曲り、蘆の繁ったヒッソリした岸を幾つかすぎた。そして場所探しがようやく単調になろうとする頃彼等は特に角度の深いうねりを廻って、静かに湛《たた》えた池といおうか湖水といおうか、とにかくその風景に思わず見惚《みとれ》ざるを得ないような場所へ出た。広い水面の真ン中に灯心草《とうしんそう》に四面をかこまれた細長い平たい島が横わっていて、島の上には竹もしくは熱帯産の強い藤で編んだ細長い平たい家が立っていた。縦に竹をならべた四壁は薄黄いろく、屋根の傾斜をなす竹の列は茶褐色を呈しているので、その細長い家は何よりも単調に見えることを免れた。朝早い風は島をめぐる蘆の葉をザワザワとそよがせ、この不思議な家に触れて巨大な蘆笛のようにピーピーと鳴った。
「やあー!」とフランボーが叫んだ、「とうとうここが目的地か! あれがいわゆる『|蘆が島《リードアイランド》』だな。あれがいわゆる『蘆の家』だな。頬鬚を生やした肥った男は、仙人だったに違いないな」
「まアそんな所かな」と師父ブラウンが言った、「もし彼が仙人だったら、悪い仙人じゃわイ」
こう話しながらも気短かなフランボーは小舟をサラサラそよぐ蘆の中に乗入れていた、そして彼等は細長い奇妙な離れ小島の、珍妙な物さびしい家の傍に立った。
二
家は水を背にして立っているので、こっち側には船着の上り段があるきりだった。玄関は向側《むかうがわ》にあって細長い島の庭を見下《みおろ》している、二人の訪問者は低い檐《やぐら》の下に、ほとんど家の三方を縁どっている小径《こみち》について廻って行ったのである。三方にそれぞれ開かれた窓を通して彼等は同じように細長い明るい部屋をのぞいた。同じように壁にはたくさんの姿見をはめ込んだ板壁がはりめぐらされておった。そして軽食《ランチ》の膳立であろう、甘《うま》そうな品々が
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