らし、推進器《すいしんき》からは水を切る白い波を立てて川をくだって行くのが手にとるように見えた。甲板《かんぱん》の上には汚れた白い服を着たボーイが二三人仕事をしているのが小さく見えた。清三は立ちどまってじっとそれを見つめた。白い煙《けむり》が細くズッと立つと思うと、汽笛のとがった響きが灰色に曇った水の上にけたたましく響きわたった。利根川はようようとして流れて下る、逝《ゆ》く者《もの》かくのごとしという感が清三の胸をおそってきた。

       三十五

 清三の中田通いは誰にも知られずに冬が来てその年も暮れた。その間にも危険に思ったことは二三度はある。一度は村の見知《みし》り越《ご》しの若者の横顔を張《は》り見世《みせ》の前でちらと見た。一度は大高島の渡船《とせん》の中で村の学務委員といっしょになった。いま一度は大越の土手を歩いているとひょっくり同僚の関さんにでっくわした。その時はこれはてっきり看破《かんぱ》されたと胸をドキつかせたが、清三のいつもの散歩癖を知っている関さんは、べつに疑うような口吻《こうふん》をももらさなかった。
 けれど菓子屋、酒屋、小川屋、米屋などに借金がだんだん
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