ころから出してくださいな」などと言って甘えた、そういう時には、「栗橋のにそう言って出してもらってやろうか」などと柄《がら》にもない口を清三はきいた。と、女はきまって、男の膝をぴしゃりと平手で打って、これほど思って苦労しているのにという紋切《もんき》り形《がた》の表情をしてみせた。それからいま一人|塚崎《つかざき》の金持ちの百姓の息子《むすこ》が通って来た。田舎の女郎屋のこととて、室のつくりも完全していないので、落ち合うとその様子がよくわかる。その息子《むすこ》は丸顔の坊ちゃん坊ちゃんした可愛い顔をしていた。「可愛いおとなしい人よ。なんだか弟のような気がしてしかたがない」と女はのろけた。
そのほかにもまだあるらしかったが、よくわからなかった。鬚《ひげ》の生えた中年の男も来るようであった。清三は女の胸に誰が一番深く影を印しているかをさぐってみたが、どうもわからなかった。自分の影が一番深いようにも思われることもあれば、要するにうまくまるめられているのだと思うこともある。あの時、女はしみじみと泣いてそのあわれむべき境遇を語った。黒目がちな眼からは、涙がほろほろとこぼれた。清三はその時自己の境
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