くもあり腹立しくもあり気の毒にもなった。清三はただフンフンと言って聞いた。
「その代わり僕は僕のできる限りにおいて、君のために尽力《じんりょく》するさ!」
こんなことを[#「 こんなことを」は底本では「こんなことを」]郁治はいく度も言った。
「小畑もそんなことを言っていたよ。僕だッて、君の心地《こころもち》ぐらいは知っているさ」
こんなことをも言った。
郁治はまた石川のこのごろ溺《おぼ》れている加須《かぞ》の芸者の話をした。
「先生、このごろは非常に熱心だよ。君も知ってるだろうが、自転車を買ってね、遠乗《とおの》りをするんだとかなんとか言って、毎日のように出かけて行くよ。東京から来た小蝶《こちょう》とかいう女で、写真を大事にして持っていたよ。金持ちの息子なんていうものの心はまるでわれわれとは違うねえ君。勉強なんぞしないでも、りっぱに一人前になっていかれるんだからねえ」
できるだけの力をつくすと言った言葉、その言葉の陰に雪子がいることを清三はあきらかに知っていた。けれどそれが清三にはあまりうれしくは思われなかった。つんとすました雪子の姿が眼の前を通ってそして消えた。かれはいまさら
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