この身などはまだ好い方かも知れぬ……』
『あの登子さまが何うかなさりましたか?』
『そちは知らぬか?』
『式部卿の宮さまのことではござりませぬか?』
『それはさうだけれども……それは誰も知つてるけれど……』
『何か他に?』
『御門が何うしてもお許しにならぬので……』
『御門が……』
 登子の姿を垣間見てから、何うしてもそれを大内裏に召すと言つて言ふことをきかなかつた。しかしそれにはその姉のきさいの宮の思わくもあることだし、またその一方では式部卿のこともあるので、それだけはたつて兼家の父がおことはり申上げたのであつたが、しかも御門は何うしてもその御心をひるがへさうとはせぬといふのであつた。
『まア……』
 呉葉も流石に驚かずにはゐられないといふやうに聲を立てた。
『殿がおつしやいましたのですか』
『これはお前、誰にも言つてはならぬことだよ……』
 窕子は聲をひそめた。
『お心安う……。それは決して他言などは致しませぬが、それにしても、あまりのことではございませぬか。つい、此間も小一條の女御のことであのやうに后の宮がお腹立におなり遊ばしたのに……それにもお懲りあそばさずに――』
『姉はまだ
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