話した。
『何うも、女子といふものは面倒なものぢや』
『何うかなさりましたか』
『別に何うといふことないが、もう少し離れてゐて呉れれば好いと思ふことがござるな……』
『またよべ御介抱なされましたか』
『さうぢやない、今度のは別じゃがのう……。何うしてあゝ女子というものは嫉妬深いものかなう……。いくら申してきかせてもわかり居らぬ……』
『殿は果報者でござるほどに……この身などは、この若さに、まだひとりすらさういふものを持ちてだにあらぬに………殿は――』
『局のは何うし居つた?』兼家は笑ひながら言つた。
一五
幼ない道綱はいつの間にか數へ年の三つになつて、此頃は片語雜りの言葉を可愛い口から言ふやうになつた。窕子に取つてはそれがせめてもの慰藉であつた。普通館の人達は子が生れると北山あたりに好い乳母をもとめて、そこに數年里子に出して置くのを常としてゐたけれども――兼家もそれを希望しないではなかつたけれども、窕子はこの私の小さい珠玉だけは片時も自分の胸から離すことが出來ないと言つて、ひたとそれをかき抱いたので、それでそこで育てらるゝことゝなつた。しかし里の母親などは、昔人
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