やうにして母親の顏を見詰めた。と、それと同時に窕子の頭にはいろいろなことが一杯に漲るやうにあつまつて押寄せて來た。兼家のことについてこれまで長く苦しんで悶えて來たこともあるが――今でもそのために苦しんでゐないことはないのだが、しかもそれ以上にこの人生のことが深く大きくかの女の頭にひろげられ逼つて來るのを感じた。今までのかの女の心持のやうな氣分ではゐられないやうな氣がした。道綱と自分のことがそれとはつきり思ひ出されると共に、兼家と自分と道綱のことがはつきりその眼の前に浮んで來た。自分も一度はさうした悲哀をこの道綱に味ははせなければならないのである。母子の別れは何うしたつて否定することは出來ないのである。さう思ふと、戀といふものに對する考へ方も、愛といふことに對する考へ方も、今までとは違つて、すつかりそこにその全面をあらはして來たやうな氣がした。何んなに人間に悲哀があつても――その愼恚と嫉妬とのために身も魂も亡びさうになるやうなことがあつても、そんなことには少しも頓着せずに、人生と自然とはその微妙な空氣をつくつて、徐かにその歩んで行くべきところへと歩いて行つてゐるのだつた。さう思つた時には
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