言ふことがあるが、お前はそれだ!』
『そんなことはございませんけど……』
『たしかに、さうだ……。お前がそれを言つて呉れないと、その一心を把持するといふ心持が非常に小さくなつて了ふところだつた……』
 そこにまた足音が几帳のかげでして、可愛い雛僧が入つて來た。
『あの使のものが待つてをりますが――お返り言がございますのでございませうかツて?』
『あ! すつかり、こつちの話にまぎれて了つた――今すぐ御返事を上げますからツて』
 かう言つて窕子は傍に置いてある机に向つた。
 暫くして出來た返事をもとの文箱に入れてそのまゝ呉葉にもたせてやつた。窕子は猶ほじつとして坐つてゐた。下では水の音が靜かに靜かにきこえてゐた。窕子はその一心の把持といふことと報酬的な心持との矛盾を長い長い間深く深く考へてゐた。
 不意にあることがかの女の頭に上つて來た。『さうだ、さうだ……その一心の把持といふ言葉の中には、その報酬的な心持が何階も何階も階級を成してゐるのだ……。いゝえ、さうしてつらい報酬的な瞋恚に何遍も何遍も燃え上つたればこそその一心の把持といふ言葉が出て來たのだ……。佛は何遍も何遍もさうした心を通過して
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