。このやうな母を持つたお前は何といふ不幸な星のもとに生れ出て來たのか)などとその柔かな頬にその身の頬を押しつけて涙を流したことも一度や二度ではなかつた。しかし、次第にその小さな道綱の存在がかの女に深い意味を感じさせるやうになつて來たのであつた。
何と言つても道綱だけがその身のものである。それだけは他のものが何うすることも出來ない。切つても切れない。離れようとしても離れられない。次第にそこにかの女は人生を感じて來た。
窕子は登子が内裏に入つて行くのを見送つて歸つて來て、ひしと道綱を抱き上げて、吃驚して逃げようとするのを無理に押へてきつく抱緊めたり口づけしたりしたことを思ひ起した。『まア、おとなにしてこゝにゐよ……あこだけはこの母のものではないか。何時まで經つても、この身から離れて行かぬのはあこだけぢや……』かう口に出してまで言つて、母の膝から逃れようとする道綱を押へたことを思ひ起した。(まだそれでもこの身にはなぐさめられるものがある……それから思ふと、あの末の君は悲しい)こんなことをつゞけて言つたことを思ひ起した。
『母者、母者……』
などと言つて、道綱は遠くから走つて來て、その小
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