感じを味ったこともあった。若い妻と裏にあった茶の新芽を摘んで、急こしらえの火爐を拵えて、長火鉢で、終日かかって、団子の多い手製の新茶をつくって飲んだこともあった。田舎の茶畠に、笠を被った田舎娘の白い顔や雨に濡れた茶の芽を貫目にかけて筵にあける男の顔や、火爐に凭りかかって、終日好い声で歌をうたう茶師のさまなどが切々に思い出されて来る。母親は其頃茶摘に行っては、よく帰りに淡竹の筍を沢山採って来た。
楓の若葉は赤いのよりも緑なのが好いと私は思う。
底本:「日本の名随筆18 夏」作品社
1984(昭和59)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「田山花袋全集 第一五巻」文泉堂書店
1974(昭和49)年3月
※「新茶のかおり」は随筆集「インキ壷」1909年所収。
入力:砂場清隆
校正:Tomoko.I
2000年11月4日公開
2004年7月21日修正
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