つた。
 二人は体が引緊められるやうな気がした。かれ等は昨日この古い歴史を持つた土地に来て、久しい間そのまゝに残つてゐる池や、城址や、寺の塔や、帝王の陵や、日本では今日は容易に見ることの出来なくなつてゐる亀趺※[#「虫+璃のつくり」、第3水準1−91−62]首や、大きな鐘などを見て、過ぎ去つた長い人生の上に※[#「倏」の「犬」に代えて「火」、第4水準2−1−57]忽に現はれてそしてまた※[#「倏」の「犬」に代えて「火」、第4水準2−1−57]忽に過ぎ去つた人達のことを思つて、その空気やら感じやらに深く捉えられて、現に昨夜もよくは眠られないくらゐであつたが、今はさうした感傷的な心持どころではなく、全く何か大きなものに圧倒的に支配されて了つたやうな感じがした。石刻の仏像は、しかも何も知らぬやうに、何者が来てそれと相対しやうが対すまいが、感動しやうが感動しまいが、そんなことには頓着ないといふやうに、寂としてそこに立つてゐるのであつた。

         二

 二人が通り一遍の遊覧者であつたならば、唯、大勢の言ふやうに、「えらいもんだな?」とか、「こんなものは日本にはない」とか、「千年前に
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