解らない知られないものは、黙つて見て居るより他に仕方がない。
 男の児はいつも黙つて見て居る方であつた。山が聳えて居ても、川が流れて居ても、谷が山と山との間に開けて居ても、旅店の女が白粉をつけて笑つて打解けた言葉をかけても……
 男の児は黙つて見て居た。
 ライフは考へるライフよりも見るライフである。聞くライフである。見る処から、聞くところから、いろ/\な現象が、その意味を豊富にして行つた。
 眼さへあれば好い。眼がつぶれたら、耳さへあれば好い。耳も聞えなくなつたら、触つてゞもライフが知りたい。



底本:「日本の名随筆78 育」作品社
   1989(平成元)年4月25日第1刷発行
   1991(平成3)年9月1日第3刷発行
底本の親本:「花袋文話」博文館
   1911(明治44)年12月
入力:ひより
校正:小林繁雄
2008年3月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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