た手紙ッて、さっきの端書の又後に来たのか」
芳子は点頭《うなず》いた。
「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
平和は再び攪乱《かきみだ》さるることとなった。
六
一日置いて今夜の六時に新橋に着くという電報があった。電報を持って、芳子はまごまごしていた。けれど夜ひとり若い女を出して遣る訳に行かぬので、新橋へ迎えに行くことは許さなかった。
翌日は逢って達《た》って諌《いさ》めてどうしても京都に還《かえ》らせるようにすると言って、芳子はその恋人の許《もと》を訪《と》うた。その男は停車場前のつるやという旅館《はたごや》に宿《とま》っているのである。
時雄が社から帰った時には、まだとても帰るまいと思った芳子が既にその笑顔を玄関にあらわしていた。聞くと田中は既にこうして出て来た以上、どうしても京都には帰らぬとのことだ。で、芳子は殆《ほとん》ど喧嘩《けんか》をするまでに争ったが、矢張|断《だん》として可《き》かぬ。先生を頼《たよ》りにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤《ごもっとも》である。監督上都合の悪いというのもよく解りました。けれど今更帰
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