気がした。一青年の魂を墓の下から呼び起こして来たような気がした。
 今でも、私はH町の寺に行くと、きっとその自然石の墓の前に行った。そして花などを供えた。その墓石は私にとっては、決してもう他人の墓石ではなかった。その友だちの植えた檜《ひのき》の木ももう蔭《かげ》をなしていたが、最近行った時には、周囲の垣がこわれて、他の墓との境界がなくなっていた。
[#地から2字上げ]――『東京の三十年』より――



底本:「田舎教師 他一編」旺文社文庫、旺文社
   1966(昭和41)年8月10日初版発行
   1985(昭和60)年重版発行
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2007年4月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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