『田舎教師』について
田山花袋

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田舎《いなか》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)用水|縁《べり》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さい[#「さい」に傍点]
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 私は戦場から帰って、まもなくO君を田舎《いなか》の町の寺に訪ねた。その時、墓場を通りぬけようとして、ふと見ると、新しい墓標に、『小林秀三之墓』という字の書いてあるのが眼についた。新仏らしく、花などがいっぱいにそこに供《そな》えてあった。
 寺に行って、O君に会って、種々戦場の話などをしたが、ふと思い出して、「小林秀三っていう墓があったが、きいたような名だが、あれは去年、一昨年あたり君の寺に下宿していた青年じゃないかね」
「そうだよ」
「いつ死んだんだえ?」
「つい、この間だ。遼陽《りょうよう》の落ちた日の翌日かなんかだったよ」
「かわいそうなことをしたね、何だえ、病気は?」
「肺病だよ」
「それは気の毒なことをしたね」
 私はその前に一二度会ったことがあるので、かすかながらもその姿を思い浮かべることができた
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