るかも知れません。そのどちらを答へられてもあなたは失望なすつてはいけないのです。
しからばこの王は何界に属するや? とおたづねになつたアルフレツド王に、
「神の界に属します」と答へた少女は賢いのです。それは学校の生徒であつたからです。夢の国の少女は、ただうれしくて泣いたことでしよう。或は、黙つて微笑んだことでしよう。たとへばあの山彦です。
こちらからたづねたことを答へるばかりで、曾て自分から言つた事はないのです。
ぎりしやから以来、美しい乙女には、言ふ事は禁ぜられてゐるのです。あのにむふの娘ゑこをも夢の国の少女の一人だつたのです。
ある日のこと、じゆのの夫がゑこをの許へいつてゐるのを知つて行つて見ると、ゑこをは用もないいろいろのことをお饒舌りして、じゆのの夫を引止めてゐたのです。じゆのは大そう怒つて、それからといふものはゑこをに答へることだけしか、ものを言ふことを許さなかつた。それから後のある日のことゑこをの好きな少年がゑこをの許を訪ねてくれた。ゑこをは嬉しいことを禁ぜられてゐる今は、一言も言ふことは出来なかつた。それで黙つてほほゑんでゐた。
哀れな少年は、怒つて往つてしまつた。ゑこをは泣いてゐた。
この物語は誰でも知つてゐる話だが、少女の夢の国はかうして昔から誰にも知られず来たのです。
底本:「日本の名随筆 別巻69・秘密」作品社
1996(平成8)年11月25日発行
底本の親本:「春のおくりもの」ノーベル書房
1975(昭和50)年8月
入力:加藤恭子
校正:篠原陽子
2001年3月22日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング