わたどの》に
散《ち》りくる花《はな》を舞扇《まひあほぎ》
うけて笑《ゑ》みたる「歌麿《うたまろ》の
女《をんな》」の青《あを》き眉《まゆ》を見《み》き。
冬《ふゆ》の夜《よ》の、夢《ゆめ》一《ひと》つはかくなりき。
黒《くろ》き頭巾《づきん》を被《かぶ》りたる
人買《ひとがひ》の背《せ》に泣《な》いじやくり
山《やま》の岬《みさき》をまわる時《とき》、
「廣重《ひろしげ》の海《うみ》」ちらと見《み》き。
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雪《ゆき》の降《ふ》る日
雪《ゆき》の降《ふ》る日《ひ》は、駒鳥《こまどり》[#ルビの「こまどり」は底本では「こま り」]の
紅《あか》い胸毛《むなげ》のおど/\と
風《かぜ》に吹《ふ》かれるやるせなさ。
雪《ゆき》の降《ふ》る日《ひ》に、小雀《こすヾめ》は
赤《あか》い木《こ》の実《み》が食《た》べたさに
そっと見《み》に出《で》るいぢらしさ。
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揺籃《えうらん》の記臆《きおく》
(ねんねしなされ。まだ日《ひ》は高《たか》い
暮《くれ》りやお寺《てら》の鐘《かね》がなぁる。)
村《むら》のはづれにちら/\するは
虫《むし》か蛍《ほたる》か人魂《ひとだま》か。
さうじやない/\。母《かヽ》さんの
点《つ》けさしやんした雪洞《ぼんぼり》が
風《かぜ》に吹《ふか》れてゐるわいな。
(ねんねしなされ。まだ夜《よ》は夜中《よなか》
明《あけ》りやお寺《てら》の鐘《かね》がなぁる。)
山《やま》のうへをばふわ/\飛《と》ぶは
鳥《とり》か獣《けもの》か三《み》ヶ|月《づき》か。
さうじやない/\。母《かヽ》さんの
小袖《こそで》に染《そ》めた牡丹《ぼたん》の花《はな》が
雨《あめ》に降《ふ》られてゐるわいな。
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文《ふみ》
雲《くも》に別《わか》れて野《の》に降《お》りし
雨《あめ》のこヽろのやるせなさ
思《おも》ひまゐらせ候《そろ》※[#「まいらせそろ」の草書体文字、コマ22−左−4]
空《そら》になげたる彩文《いろぶみ》は
森《もり》にかヽりし虹《にじ》かいな。
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芝居《しばゐ》ごと
雪《ゆき》の降《ふ》る夜《よ》のかなしさに
姉《あね》の小袖《こそで》をそと被《か》つぎ
「……でんちうじや、はりひぢじや
島《しま》さん、紺《こん》さん、なかのりさん……」
踊《おど》りくたびれ「袖萩《そではぎ》」の
肩《かた》に小袖《こそで》をうちかけて
涙《なみだ》ながらの 芝居事《しばゐごと》
「寒《さむ》かろうとて着《き》せまする」
このまあつもる雪《ゆき》わいの。
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折鶴《をりづる》
行灯《あんど》のかげにとつおいつ
娘《むすめ》ごころの羞《はつか》しや
何《なん》と答《こたへ》もしら紙《かみ》の
膝《ひざ》のうへにて鶴《つる》を折《を》る。
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青《あを》い窓《まど》
隣《となり》のとなさん、何処《どこ》へいた。
向《むか》ふのお山《やま》へ花摘《はなつ》みに
露草《つゆくさ》 つら/\月見草《つきみぐさ》。
一|枝《えだ》折《お》れば、ぱっと散《ち》る
二|枝《えだ》折《お》れば、ぱっと散《ち》る
三|枝《えだ》がさきに日《ひ》が暮《く》れて
東《ひがし》の紺屋《こうや》へ宿《やど》とろか、
南《みなみ》の紺屋《こうや》へ宿《やど》とろか。
東《ひがし》の紺屋《こうや》は赤《あか》い窓《まど》、
南《みなみ》の紺屋《こうや》は青《あを》い窓《まど》。
南《みなみ》の紺屋《こうや》へ宿《やど》とれば、
夜着《よぎ》は短《みぢ》かし夜《よ》は長《なが》し。
うつら/\とするうちに
青《あを》い窓《まど》から夜《よ》があけた。
底本:「桜咲く島 春のかはたれ」洛陽堂
1912(明治45)年2月24日発行
※近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を新字にあらためました。
※文中の「…」は底本では1文字あたり4点ないしは5点の点線ですが、文字の幅に合わせた「…」で代用しました。
※歴史的仮名遣いから外れたものも、底本通り入力しました。
※促音「っ」の小書きの混在は底本のままとしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2005年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作に
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