わが身《み》につまされて
ほろりほろりと泣《な》いてゆく。
[#改ページ]

 白《しろ》い薬《くすり》

黄《きい》な袋《ふくろ》のセメンエン
熱《ねつ》ある舌《した》にしみる時《とき》。
暗《くら》い空《そら》から雪《ゆき》が降《ふ》る。

炬燵《こたつ》の上《うへ》の黒猫《くろねこ》の
青《あを》い瞳《みとみ》の光《ひか》る時《とき》。
柩《ひつぎ》の屋根《やね》へ雨《あめ》が降《ふ》る。
[#改ページ]

 街《まち》の五月《ごぐわつ》

 ……チン ツン くどけば なぁびく
   チツツン ツントン 相生《あひおひ》の松《まあつ》……

口三味線《くちさみせん》の足拍子《あしびやうし》
空気草履《くうきざうり》の柔《やわら》かさ。
肩《かた》のうへでは花色《はないろ》の
日傘《ひがさ》がまわる絵《ゑ》がまわる。

 ……またいついつもの約束《やくそく》の チンツン
   日《ひ》をまつ 時《とき》まつ 暮《くれ》をまあつ……
[#改ページ]

 越後《ゑちご》の山《やま》

角兵衛獅子《かくべいじヽ》の悲《かな》しさは
親《おや》が太鼓《たいこ》打《う》ちや、子《こ》が踊《おど》る。
股《また》の下《した》から峠《とうげ》を見《み》れば
もしや越後《ゑちご》の山《やま》かと思《おも》ひ
泣《な》いてたもれなとも/″\に。

角兵衛獅子《かくべいじし》の身《み》の辛《つら》さ
輪廻《りんね》はめぐる小車《おぐるま》の
蜻蛉《とんぼ》がへりの日《ひ》も暮《く》れて
旅籠《やど》をとるにも銭《ぜに》はなし
逢《あひ》の土山《つちやま》雨《あめ》が降《ふ》る。
[#改ページ]

 夏《なつ》のかはたれ

  一《ひ》や
  二《ふ》や
  お駒《こま》さん。
  煙草《たばこ》の けむりは
  丈八《ぢやうは》つあん…………
とん/\とんとつく手鞠《てまり》。
白《しろ》い指《ゆび》からはなれて見《み》れど
未練《みれん》が残《のこ》るといつたよに
やるせないよに往来《ゆきき》する。
ゆら/\ゆれる伊達帯《だておび》から
江戸紫《えどむらさき》の日《ひ》が暮《く》れる。
  三《み》や
  四《よ》や
  夕霧《ゆふぎり》さん………
[#改ページ]

 夢《ゆめ》

春《はる》の夜《よ》の、夢《ゆめ》の一《ひと》つはかくなりき。
丹塗《にぬり》の欄《らん》の長廊《
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング