は、春太郎も悲しくなるし、笑うときには、やはりうれしくなって笑いだすのでした。
ジャッキイのお母様が死んでから、ジャッキイは、育てられたお祖父《じい》さんお祖母《ばあ》さんに別れて、お母様の形見のヴァイオリンを、たった一つ持ったままで、街へ出てゆきました。
ちょうど、これはクリスマスの晩のことで、立派な家の窓から暖かそうな明りがさして、部屋のまん中には、大きなクリスマス・ツリーが立っていていい着物をきた子供たちは、部屋の中を飛廻っていました。ある家の食堂の方からは、おいしそうな御馳走《ごちそう》の匂《におい》がしているのでした。
「ぼくには、何にもないや。お家《うち》も、クリスマス・ツリーも、御馳走も。お父様《とうさん》も、お母様もないや、なんにも、ないや」
ジャッキイはとぼとぼと歩きました。そのうちお腹《なか》はへってくるし、寒さはさむし、そのうえ雪がだんだん降りつもって、道もわからず、それに一番わるいことは、どこへいったらいいか、ジャッキイにはあてがないことでした。
玩具屋《おもちゃや》の飾窓《ショウウィンドウ》には大きなテッディ熊《ベア》が飾ってあります。玩具屋の中から、大きな包をもった紳士が子供の手を引いて出てきました。
「あの大きな包の中にはきっとたくさん玩具があるんだよ」
ジャッキイは、ぼんやりそれを見ていますと、
「おいおい危《あぶな》いよ」
そう言って、馬車の別当が、ジャッキイをつき飛ばしました。
どこか遠くの方で、オルガンの音がする。オルガンに足拍子をとりながら、沢山の天使がダンスをやっている。そこは、高い青い空で、空には数えきれないほどたくさんの星が、ぴかぴか光っています。
「きれいだなあ」
ジャッキイは、夢を見ているような心持で、高い空を見ていました。すると、白い髯《ひげ》をはやした一人の老人《としより》が、とぼとぼと歩いてきました。
「ああ、サンタクロスのお爺《じい》さんだ。きっとそうだよ。ぼくんとこへ、クリスマスの贈物を持ってくるんだよ。だけどおかしいなあ。袋を持っていないや。」
老人は、だんだんジャッキイの方へ近づいてきました。そしてジャッキイをだきあげて、自分のうちへつれて帰りました。家《うち》といっても貧しい屋根裏で、あくる日からジャッキイは、このお爺さんと二人で、ヴァイオリンをひいて、街を、はずれからはずれまで歩か
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