二郎《じろう》さんは、大急ぎで家《うち》へ飛んで帰りました。二郎さんの綿入をぬっていらした母さんにいいました。
「サンタクロスに手紙をかいてよ、かあさん」
「なんですって、この子は」
「ピストルと、靴と、洋服と、ほしいや」
「まあ、何を言っているの」
「みっちゃんとこのかあさんも手紙をかいて、サンタクロスにやったって、人形だの、リボンだの、ハーモニカだの、ねえかあさん、ぼく、ピストルとサーベルと、ね……」
「それはね二郎さん、お隣のお家には煙突があるからサンタクロスのお爺《じい》さんが来るのです」
「でもいったよ、みっちゃんのかあさんがね、煙突がないとこは天窓がいいんだって」
「まあ。それじゃお手紙をかいてみましょうね。坊や」
「嬉《うれ》しいな。ぼくピストルにラッパもほしいや」
「そんなにたくさん、よくばる子には、下さらないかも知れませんよ」
「だってぼく、ラッパもほしいんだもの」
「でもね、サンタクロスのお爺様は、世界中の子供に贈物をなさるんだから、一人の子供が欲ばったら貰《もら》えない子供ができると悪いでしょう」
「じゃあぼく一つでいいや、ラッパ。ねえかあさん」
「そうそう二郎さんは好《よ》い子ね」
「赤い房のついたラッパよ、かあさん」
「えエえエ、赤い房のついたのをね」
「うれしいな」
クリスマスの夜があけて、眼《め》をさますと、二郎さんの枕《まくら》もとには、立派な黄色く光って赤い房のついたラッパが、ちゃんと二郎さんを待っていました。二郎さんは大喜びでかあさんを呼びました。
「かあさん、ぼく吹いてみますよ。チッテ、チッテタ、トッテッ、チッチッ、トッテッチ」
ところが、みっちゃんの方は、朝、目をさまして見ると、リボンと鉛筆とナイフとだけしかありませんでした。
みっちゃんはストーブの煙突をのぞいて見ましたが、外には何も出てきませんでした。みっちゃんは泣き出しました。いくらたくさん贈物があっても、みっちゃんを喜ばせることが出来ないのでした。みっちゃんはいくらでもほしい子でしたから。
[#地付き](一九二五、九、二五)
底本:「童話集 春」小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日初版第1刷発行
底本の親本:「童話 春」研究社
1926(大正15)年12月
入力:noir
校正:noriko saito
2006年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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