ゃ、かあさん、書いて頂戴《ちょうだい》な。そして、サンタクロスのお爺さんに手紙だして、ね」
「はい、はい、さあ書きますよ、みっちゃん、いってちょうだい」
「ピアノよ、キュピーよ、クレヨンね、スケッチ帖《ちょう》ね、きりぬきに、手袋に、リボンに……ねえかあさん、お家《うち》なんかくださらないの」
「そうね、お家《うち》なんかおもいからねえ。サンタクロスのお爺《じい》さんは、お年寄りだから、とても持てないでしょうよ」
「では、ピアノも駄目かしら」
「そうね。そんなおもいものは駄目でしょ」
「じゃピアノもお家もよすわ、ああ、ハーモニカ! ハーモニカならかるいわね。そいからサーベルにピストルに……」
「ピストルなんかいるの、みっちゃん」
「だって、おとなりの二郎《じろう》さんが、悪漢《わるもの》になるとき、いるんだっていったんですもの」
「まあ悪漢ですって。あのね、みっちゃん、悪漢なんかになるのはよくないのよ。それにね、もし二郎さんが悪漢になるのに、どうしてもピストルがいるのだったら、きっとサンタクロスのお爺さんが二郎さんにももってきて下さるわ」
「二郎さんとこへも、サンタクロスのお爺さんくるの」
「二郎さんのお家へも来ますよ」
「でも二郎さんとこに、煙突がないのよ」
「煙突がないとこは、天窓からはいれるでしょう」
「そうお、じゃ、ピストルはよすわ」
「さ、もう、お茶もいいでしょ。お庭へいってお遊びなさい」
 みっちゃんはすぐにお庭へいって、二郎さんを呼びました。
「二郎さん、サンタクロスのお爺さんにお手紙かいて?」
「ぼく知らないや」
「あら、お手紙出さないの。あたしかあさんがね、お手紙だしたわよ。ハーモニカだの、お人形だの、リボンだの、ナイフだの、人形だの、持ってきて下さいって出したわ」
「お爺さんが、持ってきてくれるの?」
「あら、二郎さん知らないの」
「どこのお爺さん?」
「サンタクロスのお爺さんだわ」
「サンタクロスのお爺さんて、どこのお爺さん?」
「天からくるんだわ。クリスマスの晩にくるのよ」
「ぼくんとこは来ないや」
「あら、どうして? じゃきっと煙突がないからだわ。でも、かあさんいったわ、煙突のないとこは天窓からくるって」
「ほう、じゃくるかなあ、何もってくる?」
「なんでもよ」
「ピストルでも?」
「ピストルでもサーベルでも」
「じゃ、ぼく手紙をかこうや」
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