《まっくろ》いものにぶつかって、與太郎は泥溝《どぶ》のわきへはね飛ばされました。起きあがって見ると、それは名づけ親の坊さんでありました。
「坊さま、ぼくは飴《あめ》のなかから生れたんですか」
 與太郎がきいたけれど、坊さんはもう横町を曲って、電車道の方へいってしまいました。
「おまえは、たどんのなかから生れたのよ」
 どこからか、そういう声がしました。それは質屋の小僧が、窓からいったのですけれど、與太郎は気がつきませんでしたから、やはり坊さんが、いったのだろうと思いました。
 それから與太郎は、たどんと仲よくして、もう外の物と話することをやめました。そしていまに、たどんのなかからデンマルクの第三の王女が出てきて與太郎を森の御殿へつれていって下さると、毎日考えるのでした。



底本:「童話集 春」小学館文庫、小学館
   2004(平成16)年8月1日初版第1刷発行
底本の親本:「童話 春」研究社
   1926(大正15)年12月
入力:noir
校正:noriko saito
2006年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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