はないのだ。行けば、きつと課長の奴が澁い面《つら》をしやがるにきまつてゐる。奴はもうこの間ぢゆうからおれの顏さへ見ればこんなことを言やあがるんだ――『君は一體どうしたといふんだ、まるで頭が混亂してるやうぢやないか? どうかすると、毒氣にでもあてられたやうにふらふらしてるし、時々、書類の表題に小文字をつかつたり、日附や番號を全然いれなかつたり、何が何やらさつぱり譯のわからないものにしてしまふぢやないか。』なんて。忌々しい蒼鷺野郎め! あれあ屹度このおれが局長の官邸でお書齋に坐つて、閣下の鵞鳥《ペン》を削つてゐるのが羨ましいんだらう。なあに、おれはあの會計係に逢つて、あの吝嗇坊《けちんばう》野郎を拜みたほして、あはよくば幾何《なにがし》か月給の前借《まへがり》をする期待《あて》でもなかつたなら、どうして役所へなんぞ行つてやるものか。ところが、あの會計係がどうしてどうして、一筋繩でゆく代物ぢやあないて! つひぞあん畜生が一月分だつて月給の前借《まへがり》をさせた例しがあるかい――それよりやあ、最後の審判の來るのを待つた方がましなくらゐだ。どんなにせがんだつて、こちらがいくら困つてゐたつて――
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