刻|妻《めあ》はすべきこと、同時に、国道筋の橋梁を修復し、且つ本官の許可なくしては、たとへ県本金庫より直接出張の役人たりとも、村馬の提供無用のことを申し付く。万一本官到着までに右命令の実行之無き時は、その責一に貴下にありと断ずるものなり。代官、退職中尉コジマ・デルカッチ・ドゥリシュパノーフスキイ※[#終わり二重括弧、1−2−55]
「これはしたり!」と、村長は口あんぐりの体《てい》で言つた。「お聴きの通りぢや、すべて村長に責任ありとさ。さすれば服従せにやならんわい! 絶対に服従せにやならんわい! さもなければ遺憾ながら……。で、貴様にも」と、彼はレヴコーの方へ向きなほつて語をついだ。「代官からの命令とあれば是非もない――尤も、どうしてそんなことが代官の耳に入つたのか、すこし訝《をか》しいけれど――結婚をさせてやることにする。ただ、それに先だつて貴様は鞭の味を味ははにやならんぞ! うちの聖像の下の壁に懸かつてをるやつを知つとるぢやらう? 明日《あした》あれの手入れをしてと……。して貴様、この手紙は何処で受けとつたのぢや?」
レヴコーはこの思ひもかけぬ局面の転換に茫然としてゐたが、それでもさそくの気転で、どうしてその手紙が手に入つたかといふ有りのままの事実を隠して、別の答へを用意するだけの分別はあつた。
「昨日《きのふ》の夕方ね、」と彼は答へた。「市《まち》へ出かけたんで、すると代官が馬車から降りられるところへ、ひよつくり出つ会したんだよ。あつしがこの村の者だといふことが分つたと見えて、代官がその手紙をあつしにことづけたのさ。それからね、お父《とつ》つあん、あの人は、帰りがけにうちへ寄つて食事をするから、さう言つておけつて言ひましたぜ。」
「しかと代官がさう言はれたのか?」
「ああ、たしかに。」
「お聴きかな?」と、村長は一同のものにむかつて、重々しく勿体ぶつた口調で言つた。「代官が一個人の資格をもつて、われわれ風情のところへ来臨される、即ちわしの家へ昼餐に立ち寄られるのぢや。おお!……(ここで村長は指を高くさしあげると、何か傾聴するやうな風に首を傾げた。)代官が……、お聴きかな? 代官が、わしの家へ食事に立ち寄られるのぢや! どう思はつしやる、助役さん、それからお前さんもさ、――こりやあ、なかなか並大抵の名誉ではないて! な、さうぢやないかな?」
「まだ、これまでつ
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