り]
「叔母さん、それは僕が宿場で知合ひになつた、あのストルチェンコぢやありませんか?」さう言つて、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは、自分の遭遇した一部始終を物語つた。
「それあ、あの人のことはよくは知らないよ!」と、少し考へてから叔母さんが答へた。「ひよつとしたら、そんなに悪い人間ではないのかもしれん。実際、あの人がこちらへ引移つて来てから、まだ半年にしかならないのだから、そんな僅かの間《ひま》に人柄を知るつてことは出来るものぢやないからね。何でも、あの人のお袋さんだといふお婆さんは、大層賢い女《ひと》だつてことだよ。人の話では胡瓜漬の名人ださうだ。それに、あすこのうちの女中は大変上手に段通を織るつてことだよ。で、お前さんの言ふやうに、あの人がそんなにちやほやするんだつたら、ひとつ出かけてみて御覧よ。ひよつとしたら古い罪人《とがにん》も良心に立ち返つて、もともと自分のでもない物は返してよこすかもしれないから。多分、半蓋馬車《ブリーチカ》に乗つて行けるだらうが、忌々しいことに腕白どもが後から後から釘を抜き取つてしまつたから、オメーリコにさう言つて、よく革を
前へ
次へ
全71ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング