る、それ、古びた歯並が仄白く見えてをるではないか!……」
 かくて、狂気のやうに躍りかかりざま、彼は神聖な隠者を殺害した。
 何ものかが苦しげに呻き声をあげた。そしてその呻きは野を越え、森を越えて、遠く伝はつて行つた。森の後ろから、長い爪の生えた手が伸びあがつた。そして、ぶるぶると顫へてから消え失せた。
 すると、彼はもはや恐怖も何も感じなかつた。彼の眼にはすべてのものが混乱して映つた。耳も頭も、まるで酒に酔つた時のやうにガンガンと鳴り、眼の前にある限りの物が、さながら蜘蛛の巣に包まれたやうに見えた。駒に跨がると彼は*カニョーフをさして真一文字に発足した。そこから*チェルカースイを経て、まつすぐにクリミヤの韃靼人の許へ赴かうと志したのだ。どうしてそんな気になつたのか、自分でも分らなかつた。彼はその日も、その次ぎの日も馬を走らせたが、行けども行けどもカニョーフの市《まち》はなかつた。路は確かに間違ひなくその路で、もう疾《とつ》くに見えなければならぬ筈のカニョーフの市《まち》が見えなかつた。遠くに、寺院の頂きが輝やき出した。しかしそれはカニョーフではなく、*シュームスクだつた。魔法使はまつ
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