ことだ。しかし佛蘭西がは殊にポリニヤックが絲をひいてをれば、何ともいへん。第一あのポリニヤックといふ奴が曲者なんだ! あいつはおれに死ぬまで祟つて、邪魔だてをしようと誓ひを立ててやがるんだ! それでかう、後から後からと迫害をしやがるんだが、へん、おれはちやんと知つてるぞ、貴樣は英吉利人のからくりで踊つてるのぢやないか。英吉利人つて奴は大の策士だからなあ。奴は到るところへ首を突つこむのさ。英吉利が煙草を嗅げば佛蘭西が嚔めをするくらゐのことは、もう世界ぢゆうに知れ渡つてらあな。

   二十五日
 今日また大審問官がおれの部屋へやつて來たが、遠くの方でその跫音が聞こえるなり、おれは椅子の下へ身を隱してしまつた。彼奴はおれの姿が見えないものだから、呼びにかかつた。初めに『ポプリーシチン!』と大聲で呼んだが、おれは返辭をしなかつた。すると今度は、『アクセンチイ・イワーノフ! 士族の九等官!』と呼んだが、おれはやはり默つてゐた。すると、『フェルヂナンド八世、西班牙の王樣!』とおいでなすつた。おれは思はず首を出さうとしたが、『どつこいその手は食はないぞ! 分つてらあ、また人の頭へ冷水をぶつかけるつ
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