りよせられて、戸が開かれた――と、村長は眼の前に自分の義妹《いもうと》の姿を見て、驚ろきのあまり、あつと呻いた。
「まあ、お前さんつたら、」さういふ声と共に、女は村長に詰め寄つた。「すつかり耄けてしまつただね? あたしを真暗な納屋んなかへ突つこかしたりしてさ。その一つ目小僧のどたまにやあ、これんばかしでも脳味噌があつたのかい? ほんとに鉄鉤《かぎ》に頭をぶつつけなかつたのが目つけものだよ。あたしだよつて、お前さんに言つたぢやないか? この忌々しい熊つたら、鉄みたいな手で人をひつ掴んで突きたふすんだもの! あの世へ行つて悪魔に思ひきり突つつかれるが好い!……」
 この最後の捨科白をいひ放つた時、彼女はもう戸の外の、往来へ出てゐたが、それは自分の生理的な用事で外へ出て行つたのである。
「なるほど、これあ、お主ぢやつたわい!」と、村長は我れに返つて言つた。
「どうだね、助役さん、そのやくざ野郎は実は忌々しい悪党ぢやねえか?」
「悪党ですとも、村長さん!」
「もう好い加減に、あのおつちよこちよい共に、うんと一つお灸をすゑて、これからは仕事に身をいれるやうにしむける時分ぢやなからうかね?」
「え
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