末だから。さて、祖父は運送曳きの連中といつしよに長いこと私たちの踊りを見まもつてゐた。私は、祖父の足がまるで何かに引つぱられるやうに、ちよつとの間もじつと一と処に停つてゐないのに気がついた。
「フォマ、御覧つたら。」と、オスタップが言つた。「きつとあの耄碌爺さんが踊りだすから!」
 どうだらう! 兄がさう言ふか言はぬに、もう爺さん辛抱を切らしてしまつたのだ。運送屋たちを前において、ひとつ達者なところを見せてやらうと思ひついたわけだ。
「かう、餓鬼ども! それが踊りぢやと思つとるのか? そうら、かういふ風に踊るもんぢやぞ!」祖父は踵で地面を蹴つて、両手をのばして、立ちあがりざま、さう言つた。
 さあ、かうなつては何も言ふがものはない。踊りと来たら、祖父は総督夫人の相手だつて立派にやつてのける達人だつた。私たち兄弟は脇へのいた。すると爺さん、胡瓜畑の傍の平らなところで、足をぐるぐる旋※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]させながら踊りだした。ところが、ちやうど半ばまで踊つて行つて、そこで一つうんと調子をつけて、旋風のやうに足をぱつぱつと投げ出しながら、得意のひと手を見せようとした時だ――足をあげようとしても、どうにも足があがらないではないか! 何といふ奇妙なことだらう! で、改めて踊り直しにかかつたが、まんなかまでゆくと、やつぱり駄目だ。どうしても、まるきり駄目なんだ! 両足が棒のやうに固くなつてしまふのだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]かう、魔性の地点《ところ》ぢや! 悪魔のそそのかしだ! あの人間の敵、ヘロデめが絲を引いてゐくさるのぢや。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 いやはや、運送屋たちの前で何といふ恥さらしなことだらう! そこで、また改めて踊り直しにかかつたが、まつたく、端から見てゐても気持よささうに、細かい達者なステップを踏んでゐる。ところが、中途まで来ると矢張り駄目だ! どうしても踊りぬくことが出来ない!※[#始め二重括弧、1−2−54]ええい性悪な悪魔めが! 饐《す》えた甜瓜にでも咽喉を詰らせやがれ! もつと小さい中にくたばりくさるとよかつたんだ、畜生め! この老齢《とし》になつて何ちふ恥をかかされるこつた!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう言へばまつたく、誰か後ろでくすくす笑つた。
 で、爺さんが振りかへつて見ると、どうだらう、
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