て、狩猟《かり》にも出かけなくなつた。稀《たま》に出かけることがあつても、鷓鴣と間違へて烏を射つたりした。そんなことは、前にはつひぞなかつたことである。
それから四日ばかり経つと、納屋から半蓋馬車《ブリーチカ》が庭へ曳き出された。馭者のオメーリコ――彼は時には作男であり、時には夜番でもあつた――が、朝早くから鉄槌《かなづち》でカンカンと革を打ちつけながら、あとからあとから車輪の脂を舐めに来る犬どもを引つきりなしに追ひ立てた。それは正しく、かのアダムが乗用した半蓋馬車《ブリーチカ》そのものであつたことを読者に予め御披露しておく必要がある。で、万一、誰かが、アダムの用ゐた馬車が他にあるやうなことを言つても、それは真赤な嘘で、てつきりその馬車は偽物でなければならぬ。茲に全く不可解な一事は、この馬車がノアの洪水からどうして助かつたかといふことであるが、恐らくノアの箱船には、特別な置場があつたものに違ひない。この半蓋馬車《ブリーチカ》の恰好を如実に読者諸子に描写して御覧に入れることの出来ないのは甚だ残念である。言ふまでもなく、ワシリーサ・カシュパーロヴナにはこの馬車の構造が非常に気に入つてゐて
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