生安楽に成仏して貰ひ度いもんだ――彼女《あのひと》は始終、この妾に不実な仕打ばかりしたものだけれど、しかし、そんなことはどうだつていいが、兎も角、あのステパン・クジミッチが、今も妾がお前さんに話した、あの地所をお前さんに譲るといふ遺言をしたんだよ。ところが亡くなつたお前さんのお母さんといふ女《ひと》は、まあ此処だけの話だけれど、とても変人でね。悪魔に(神様、どうぞこの穢らはしい言葉をお赦し下さい!)だつて彼女《あのひと》の気心は分りやしない。どこへ、一体、その証文を隠してしまつたものか――それは神様より他には、誰にも分りつこないのさ。だが、これはてつきりあのグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ・ストルチェンコといふ、独身の古狸の手に握り潰されてゐるのに違ひないと、妾は睨んでゐます。あの太鼓腹の曲者が、遺産をすつかり横領してしまつたのだよ。あの男がその証文を隠してゐなかつたら、何だつて賭けますよ。」
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降世斎節《フィリッポフキ》 降誕祭前の精進期、十一月十五日より十二月二十五日(旧露暦)まで。
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