に坐つてゐた。
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トゥロフィーモフ[#「トゥロフィーモフ」はママ] 当時の火酒醸造所の名前。
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イワン・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはウォツカの傍へ近寄ると、先づ手を拭いて、さかづきを仔細に検査してから酒を注いで、ちよつと明りにすかして見て、一度にそのさかづきのウォツカを口の中へ流し込んだが、直ぐにはそれをのみくださないで、口中をよく洗ふやうにしてから、ゴクリと飲みくだして、平茸の塩漬を添へた麺麭で口直しをしてから、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの方へ向き直つた。
「いや、失礼ですが、あなた様はイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチではいらつしやいませんか、あのシュポーニカさんでは?」
「仰せの通りです。」と、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチが答へた。
「いやどうも、私が存じあげてゐた頃のあなたとは実にえらいお変り方で、いや実にどうも!」さう言つて、イワン・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはなほも言葉をつづけた。「私はあなたがこんなくらゐでいらつしやつた頃のことを、よく存じてをりますよ!」さう言ひながら、彼は掌を床から二尺あまりの高さに上げて見せた。「お亡くなりになりました御尊父は――どうぞあの方に天国の恵みがありまするやうに!――実に稀に見る御仁でした。あの方のおつくりになるやうな西瓜や甜瓜は、たうてい今時、どこを捜し※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つても見つかりつこないほどの逸物でしたつけ。けふもこの家《うち》で、」と、彼はイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチを傍へ引つぱつて行つて耳こすりをした。「屹度あなたに甜瓜をすすめますがね――それが、いやはや、どんな甜瓜でせう? 見るのも嫌になりますよ! ところで、どうでせう、御尊父のおつくりになつた西瓜と来たら、」さう言ひながら彼は荘重な顔つきをして、大木の幹でも抱へるやうに両腕を拡げた。「慥かにこれ位はありましたよ!」
「どうぞ食卓《テーブル》にお就きになつて下さい!」と、グリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチがイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッ
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