して、イワンも微睡《まどろ》みはじめたり。やよ哥薩克よ、居眠るな、山路はいとも危険なり!……さはいへなべて哥薩克の、駒は道をば心得て、足を躓づき、踏み外す、憂へは更になかりけり。さて山峡に崕穴《がけ》ありて、底を極めし者もなく、この地上より天涯に達する程の奈落なり。しかも山路はその崕穴《がけ》の真上の縁を通ずるなり――二人ならばまだしもあれ、三人は並んで通り難し。今やまどろめる哥薩克を、乗せし駿馬は用心深く、その難所へとさしかかる。ペトゥローは並んで進みながらも、全身うずうずと顫きて、喜悦のために呼吸も塞がるほどなりき。やがて不意に振り向きざま、兄弟と誓ひし者を無慚にも、奈落の底へと突き落す。哀れや駒は哥薩克と、稚児もろともに深淵の、只中さして転び落つ。
        ☆
『されど咄嗟に哥薩克は、木の根にしかと捉まりしかば、駒のみ奈落へ落ち行けり。彼はわが息《こ》を肩に乗せ、辛くも上へ攀ぢ登り、まさに穴の縁へと辿りつき、眼をあげ見ればこはいかに、ペトゥローはきつと槍を構へ、ただ一と突きと待ちゐたり。※[#始め二重括弧、1−2−54]南無三! 生みの兄弟《はらから》とも、思ふ友がこの我
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