たく別の方角へ進んでゐたことを知ると、愕然として色を失つた。彼は駒を返してキエフをさして走つた。すると二日目に一つの市《まち》が見えだした。しかしそれはキエフではなく、キエフからは、シュームスクより更に遠く、もはやハンガリヤに程遠からぬガリーチの市《まち》であつた。如何とも詮方なく、彼は再び駒を返したが、やはり正反対の方角へのみ進んでゐるやうに感じられた。魔法使の心中がどのやうであつたか、言ひ現はすことの出来る人は世界ぢゆうにひとりもないだらう。もし彼の胸中を去来するところのものを一目みた人には、もはや夜の眼も合はされず、笑顔ひとつすることも永久に無くなつたことだらう。それは毒念でも、恐怖でも、また兇悪な怨恨でもなかつた。それを名づくべき言葉はこの世に存在しない。彼はさながら五体を焼かれ焙られる思ひで、この全世界を馬の蹄にかけて踏みにじり、キエフからガリーチまでの土地を人畜もろとも掴み取つて黒海の只中に沈めてしまひ度いやうな気がした。けれど、それは邪念からさう思はれるのではなかつた。否、彼には自分ながら何のためとも合点がゆかなかつた。やがて、間近く眼前にカルパシヤ山脈が現はれ、クリワン
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