てゐる。巌の聯鎖のやうに相重畳した山々は、左右へ土壌を撥ね出し、それを岩石層で打ち固めて、怒濤あれ狂ふ荒海の浸潤に備へてゐる。この岩石の聯鎖は、ワラチヤとトランシルバニヤを過ぎ、ガリシヤとハンガリヤの中間に至つて、蹄鉄状の大塊となつてゐる。このやうな山脈は我が露西亜には無い。たうてい一目では見渡すことも出来ず、その高い峯々には人跡未踏の高峯もある。その外観は寔に異様で、さながら狂暴な荒海が広い海浜から暴風《あらし》に乗つて押し寄せ、不様な海嘯となつて打ちあがり、石に化して、空中に不動の姿のまま残留したかとも思はれ、その色が灰いろを帯びて、白い山顛のみキラキラと天日に輝やく様よりすれば、大空から重厚な雨雲が落下して、地上に累々と積み重なつたものとも観られる。このカルパシヤ山脈にいたるまでは、なほ露西亜語を耳にすることが出来、山脈の彼方でも、処によつては、祖国の言葉に似た響きが聞かれるけれど、それから先きはもう、信仰も異り、言語も違ふ。その辺には、かなり稠密にハンガリヤ人が住み、彼等は哥薩克にも劣らず、馬を駆り、劔を持つて渡り合ひ、酒も呑む。そして馬具や立派なカフターンのためには吝げもなく
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