その赤い着物と奇妙な帽子がチラと見えただけである。ダニーロは馬上でよろめくとともに地上へ転落した。忠僕ステツィコは急いで主人の許へ駈けつけた。彼の主人は地上に身を伸ばし、明澄な両の眼を閉ざして横たはつてゐる。真赤な鮮血が胸もとから渾々と迸つてゐる。しかし彼は自分の忠僕に気がついたらしく、微かに瞼をあげると、その眼を輝やかして、「さらばぢや、ステツィコ! カテリーナに坊やを見棄てるなと言つて呉れい! お前たち、忠義な家来たちも彼《あれ》を見棄てないで呉れ!」さう言ひ終つて、彼は口を噤んだ。哥薩克魂がその由緒正しい五体から飛び去り、唇は蒼ざめて、彼は永遠の眠りについたのである。
 忠僕は泣き泣き、カテリーナにむかつて手を振つた。「こちらへおいでなさい、奥さま、旦那さまは御酒の加減で、こんな冷たい土の上へ酔ひ潰れておしまひになられました。これあ、もう、なかなかお目醒めにはなりませんよ!」
 カテリーナは驚愕のあまり、手を拍つとともに、藁束のやうに良人の屍《しかばね》の上へ倒れた。
「まあ、あなた! こんなところに、お眼を瞑つて倒れていらつしやるのがあなたでせうか? あたしの愛《いと》しい鷹、
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