わ。魔法使《コルドゥーン》に会つたのが悪い辻占でしたわ。それにしても、あなたはまあ、そんなに深い溜息を吐《つ》いたり、嶮しい眼つきをなすつて、お眉が、ほんとに気むづかしさうに眼の上へ押しかぶさつてゐますわ!……」
「女子《をなご》は黙つてゐろ!」と、ダニーロはむつとして、「お前たちにかかづらはつたが最後、こちらまで女《あま》つ子にされてしまふ。おい、こら、煙草の火をかせ!」さういつて、彼は舵子《かこ》の一人に顔を向けた。と、その小者は自分の煙草の火をほじり出して、主人の煙管へ移した。「魔法使《コルドゥーン》でおれを嚇しをるのさ!」と、ダニーロは言葉をついだ。「われわれ哥薩克は、有難いことに、悪魔や加特力僧《クションヅ》などにびくともするもんぢやないて。いちいち女房どもの言ひなりになつてゐたらさぞかし好からうけれど、なあ、さうぢやないか。おれたちの女房といへば――煙管と、この業物《わざもの》の他にはない筈だ!」
カテリーナは口を噤んで、まどろむ水面に瞳を落した。川風が水面に小波を立てて、ドニェープルの流れは、夜半に見る狼の毛並のやうに一面に銀色を帯びた。
独木舟《まるきぶね》はカーヴ
前へ
次へ
全100ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング