くうろたえてしまいました。
「で、ぜひとも結婚しなければ、……命にかけても結婚すると堅く心に誓ったのですが、それほど思い詰めていたにも拘らず、あなたの兄さんと来たら、お話にならない位気の弱い人でしてね、どうしてもその心のたけをば、あなたに会って打あける勇気が出なかったものです。そこで、兄さんのごく親しい友達の一人がえらばれて、代ってあなたのところへそのことの話をつけるために出かけて行くことになりました……」青年は言葉をちょっと途切らして、さて溜息を洩らしました。
「では、そのお友達というのが、あなたでいらっしゃいますの?――でも、あなた、ちっともお困りになることはございませんわ……」
女優は感動しながら、やさしくそういいました。
「いやいや、違います。そうではありません。……困ったことというのは、そのえらばれた友達が、よせばいいのに、といったところでいつかは知れるには相違ないことなのですが、あなたへお話する前に、責任を感じたものとみえて、私立探偵に頼んで、あなたの身元をしらべ、その序に兄さんの方も調べてみてもらったところが、図らずもこの二人は元々一本の幹から出たもので、兄さんはどうや
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