貼《は》ってある。
31[#「31」は縦中横] 舵手室。舵手は蒼《あお》ざめて、厚まくれた外套《がいとう》にくるまりながら、決然たる態度で舵輪を廻している。
32[#「32」は縦中横] 船尾。
33[#「33」は縦中横] 舵機――舵のついていない心棒ばかりが波間に空しく廻転した。
34[#「34」は縦中横] 大洋を走る運命の船。(溶暗)
35[#「35」は縦中横] 長い夜。おそろしく泡立っている真っ暗な海面。
36[#「36」は縦中横] (溶明)朝。青年の船室。
37[#「37」は縦中横] 青年ひどく厚く重ねた夜具の中で眼をさます。そして傍を見た。
38[#「38」は縦中横] 花嫁がいない。
39[#「39」は縦中横] 青年は周章《あわ》てて船室を飛び出す。
40[#「40」は縦中横] 一歩、船室を出るならば、ああ、見よ!
41[#「41」は縦中横] 船は白皚々《はくがいがい》たる雪に埋もれていたではないか!
42[#「42」は縦中横] 大雪の港の景色。
43[#「43」は縦中横] 船は進路を誤って、アラスカへ着いたのであった。
44[#「44」は縦中横] 青年は雪の甲板を走った。
45[#「45」は縦中横] はるかの船首に両手を上げて突っ立っている花嫁の姿。
46[#「46」は縦中横] 青年は喜びの叫びを上げる。そして走り寄る。
47[#「47」は縦中横] しかし、花嫁は身動きもしなかった。
48[#「48」は縦中横] それもそのはずである。小いさな可愛い花嫁は、天へ向って両手を差しのべたまま、氷となって、固く固く凍りついて死んでいた。
49[#「49」は縦中横] そして、悲嘆にくれた青年が、その胸にいくら熱い泪《なみだ》をそそぎかけながらかき抱いても、氷の花嫁は再び生き返りはしなかった……。(溶暗)
[#ここで字下げ終わり]
底本:「新青年傑作選 爬虫館事件」角川ホラー文庫、角川書店
1998(平成10)年8月10日初版発行
初出:「新青年」
1927(昭和2)年4月号
入力:網迫、土屋隆
校正:山本弘子
2008年1月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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