恐怖の色。叫ぶ。
[#ここで字下げ終わり]
「ガタガタ慄《ふる》えているね。お前は熱病にかかったのだ!」
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
18[#「18」は縦中横] 船客たちのどよめき。
[#ここで字下げ終わり]
「熱病!」
「熱病……」
「印度《インド》洋の熱病だ!」
「印度洋の熱病だ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
19[#「19」は縦中横] 青年は花嫁の体を腕にかかえて、
20[#「20」は縦中横] そして船室のベッドへ運ぶ。
21[#「21」は縦中横] 船医が診察する。首を大きく振って、
[#ここで字下げ終わり]
「印度洋の特有な悪性の瘧《おこり》らしい」
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
22[#「22」は縦中横] 忽《たちま》ち船全体に大袈裟《おおげさ》な消毒が始まる。
23[#「23」は縦中横] しかし、すでに遅く、悪疫は船内に瀰漫《びまん》しつつあった。まず花やかな薄羅に包まれた淑女たちが、それから紳士と船員が次々にたおれた。みんな恐ろしい寒気を身に感じて、そしてまるで「慄える玩具」のように劇《はげ》しく絶え間なく戦慄《せんりつ》した。
24[#「24」は縦中横] 花嫁の枕辺《まくらべ》で絶望している青年。青年自身も堪え難い寒気に襲われた。
25[#「25」は縦中横] 船長室。――肥った船長はベッドの中で氷嚢《ひょうのう》に冷やされながら慄えていた。
26[#「26」は縦中横] 黒ん坊の運転手は慄えながら神を祈った。
27[#「27」は縦中横] 電信技師は慄える手先で辛うじて発信機を打つ。
[#ここから1字下げ]
――S・O・S! 印度洋にて。新しき五月の花――[#「――S・O・S! 印度洋にて。新しき五月の花――」は太字]
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
28[#「28」は縦中横] 帆柱高く上がる非常信号旗。
[#ここから1字下げ]
――我等、危険に[#「――我等、危険に」は太字]|瀕[#「瀕」は太字]《ひん》せり!――[#「せり!――」は太字]
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
29[#「29」は縦中横] ただ船底の火夫だけが丈夫で働いた。
30[#「30」は縦中横] 羅針盤。不良――と書いた紙が
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