彼女は何度でも首を縦に振って、狂気のようにうなずいていることであろう。
 もう、今夜からは夜更けて姉が帰って来る憂いはない。
 可哀相な姉よ!
 だが、私は髭もすでに立派に生えたし、これからは誰に憚るところもなく、一人前の大人として世を渡って行くことが出来るのだ。
 私は途中で、汽車のシグナルのような赤いランプを一つお土産に買った。
 その赤いランプを、今は唯一の主人である我家の窓へとりつけて、私の美しい恋人を呼びとめてやるためであることは云う迄もない。



底本:「アンドロギュノスの裔」薔薇十字社
   1970(昭和45)年9月1日初版発行
初出:「新青年」
   1927(昭和2)年10月
入力:森下祐行
校正:もりみつじゅんじ
2000年2月11日公開
2007年11月4日修正
青空文庫作成ファイル:
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